あなたは立ち止まって空を見上げる事がありますか?私はよくあります。
私は空を見るのが結構好きです。
最近引っ越して来たマンションの部屋は荒川沿いの6階で、玄関を出ると川の向こうにはスカイツリーが見えるんです。
そして、川の上には大きな空が広がっています。
横浜出身の私は、ずっと東京の空は四角くて細長いと思っていたんです。
だって新橋や神田や新宿の、私が働いていた街はどこも、ビルの間から見上げる空はカクカク角っとした隙間だったから。
だから今のマンションに引っ越して来て、荒川の上の空が悠々と広がっているのに感動したのです。
そして、大きな空に見る月の眺めはまた格別です。
さて、月っていつ見ますか?
「当然十五夜でしょっ!」って? じゃあ十五夜って何時ですか?
お月見の十五夜っていつ?
「十五夜」というと、たいていの場合は旧暦8月15日の満月の夜のことを言っています。
この日の満月は「中秋の名月」「芋名月」とも言って、秋の真ん中の日に出る特別な満月なんです。十五夜は1年で最も美しい満月なんですって。
旧暦では、1月~3月が春、4月~6月が夏、7月~9月が秋で、10月~12月が冬となっていました。
8月15日は秋の真ん中なので、「中秋」です。
そもそも、旧暦っていうのは太陰暦で、現在の太陽暦とは日数の数え方が違うんです。
太陽暦は、地球が太陽の周りを1週するのにかかる日数の365日を1年と決めています。この、地球が太陽の周りを1週することを地球の公転って言うんです。
これに対して、太陰暦では月の公転、つまり月が地球の周りを1周するのにかかる日数を1ヶ月と決めています。太陰というのは月のことなんです。
空に見える月が一番欠けた新月の時から次第に月が満ちて行って、15日経つと満月になります。そしてまた15日かけて月は欠けて行きます。
だから毎月15日の夜、つまり十五夜は満月なのです。
この、月の満ち欠けの1回のサイクルが1ヶ月です。そして1年は1ヶ月×12で、1ヶ月の繰り返しからなっています。
ところが、月の公転の周期は29.53日です。そうすると、1年は29.53日×12ヶ月=354日になり、1年が11日足りなくなってしまいます。3年間では約1ヶ月のずれが出来てしまうんです。
太陰暦の1年の日数が地球の公転の日数と違うと何が困るかというと、1年のサイクルの中で何月と季節の関係がずれて行ってしまうんです。
お正月やクリスマスが夏に訪れたり、桜の花が咲く季節を秋と呼んだり、猛暑が襲ってくるのが冬になってしまったりということも起こってくるんです。
何故かと言うと、季節は地球が太陽の周りを1年かけて回ることで起こる変化だからです。
そこで季節とのずれを埋める為に、なんと、3年に1度閏月を足して1年を13ヶ月にしたんです。
これを「太陰太陽暦」と言って、日本の旧暦の太陰暦は実際には太陰太陽暦が使われていたんですって。
長くなってしまいましたが、そんな訳で、旧暦の8月15日の十五夜は、現在私達が使っている暦では、毎年日付がずれてしまいます。
ちなみに今年の十五夜、中秋の名月は、9月24日の月曜日となっています。
お月見は、いつ頃からあったの? 意味は?
月を愛でる習慣は非常に古くって、日本では縄文時代の頃からあったみたいです。
そうですよね、美しいものは時代を超えて美しいのです。美しい月を見て感激する気持って、現代人も縄文時代の古代の人々もきっと変わらなかったのでしょうね。これって人間の本質っていうことかしらね。
名月の日に月を鑑賞する風習は唐から日本の貴族の中に入って来て、平安時代には徐々に盛大になって行ったみたいです。
延喜19年(919年)には宇多法皇が日本独自のお月見を開いたんですって。この頃は歌を詠み、雅楽を楽しみながらお酒を酌み交わしたり、舟遊びをしながら水面に映る月を楽しんだりしていたようです。まるで絵に描いたように優雅に、観月を楽しんでいたようですね。
明の時代には単に月を観ながら宴会をするというだけではなく、名月の日に供え物をするといった習慣が始まったようです。日本では室町時代後期には月を拝み、お供えをする様になって行ったんですって。
現代のお月見といえば、“ススキと月見団子”がお月見のお供えの定番のようになっていますよね。
お月見団子ってどうして十五夜に供えるの?
お月見には、お月見団子とススキとばかり思っていませんか?
十五夜にお供えするのは月見団子ばかりとは限らないのです。里芋や栗などの収穫されたばかりの作物やお神酒を供えたりもするんです。収穫物である里芋を供えることから、“芋名月”と呼ばれることもあるんですよ。
また、ススキは稲穂に姿が似ているから、収穫した稲に見立てて飾られるとも言われ、稲穂を飾る地方もあるんですって。
作物を育てるには1年を通した季節の変化がとても大切ですよね。またそれと共に、月の満ち欠けが作物の生長に大きな影響を与えているんです。
昔の人は月の満ち欠けと作物の生育との関係をよく知っていて、月の満ち欠けのリズムを農作業の拠り所としていたんです。いつ何をすれば良いかを判断するための作業カレンダーのように利用していたようです。
旧暦の7日前後から15日にかけての上弦の月の時には植物の生長は緩やかで、16日から22日の下弦の月の頃には伸長が活発になり、その後翌月1日まではまた緩やかになるといったサイクルがあるんです。植物は月の満ち欠けに合わせて生長のリズムが変わるんでね。
各地で農業についての月との関係で、古くから受け継がれてきたことが沢山あるんです。
新月の時は月が太陽の側にあるので、月の引力に太陽の引力が加わって、地球への引力が強くなるんです。植物の樹液の流れが引力の影響によって下降して根っこの方に集まります。
この時に種を蒔くと発根は遅れて芽が早く伸びてしまいます。そうすると根がよく張らないので丈夫に育たないんです。
逆に、満月は月が太陽の反対側にあって地球への引力が弱くなります。そうすると樹液が幹や枝の方に上昇します。満月の5日前から前日までに種蒔きをすると発根してから芽が出るので根がよく張り、土の中の養分を十分に吸い上げて丈夫な稲や作物に育ちます。
上弦の月から満月にかけて樹液が幹や枝の方に上昇するからと考えられているんです。
その他にも、
・新月の頃には病気が発生しやすいので、その後に葉面散布や防除をする。
・虫は満月の3日前に交尾して満月に産卵して、満月の3日後に孵化する傾向があります。殻が固い卵の時よりも孵化直後のこの時期の害虫駆除が一番効果があるそうです。
・収穫時期は新月から満月にかけての時期が吸引力が強いので適している。
とか、月の満ち欠けと農作物の関係は本当に深いんですね。
現代でも、月の満ち欠けのリズムで農業を実践している人たちがいるそうですよ。なんだか雄大なロマンがありますね。
このように月の満ち欠けが農業に与える影響は大きく、また、このリズムを知ることは農業にとって大切な欠かせない知恵だったのだと思います。
こんな風に月の存在は作物の生育と収穫にとって非常に大きくて、月のリズムのおかげで農作物の収穫がうまくできるという感謝と畏敬の念を月に抱いていったのでしょうね。
こういったことから、月に対する信仰も生まれて行ったのかもしれませんね。
だから、お月見の時にはただ月の美しさを鑑賞して愛でるだけではなく、自然と作物の収穫に対する感謝と願いをこめて、今年採れた収穫物を供える形になって行ったんでしょうね。
お月見には、今年も無事収穫できた米の粉で作った団子を三方に乗せて供えるのです。三方というのは、もともと神様への供え物を乗せるものなのです。このことからも神格化された月への畏敬の念が窺われると思います。
そして、団子の他にも里芋や栗などの収穫された作物を一緒に供えたりするのです。
お月見団子はいくつ? どうやって供えるの?
お月見団子は、十五夜にちなんで15個お供えします。
お月見の月は十五夜ばかりではないんですよ。旧暦の9月15日の月を十三夜と呼んでいます。十三夜の満月は十五夜の次に美しい月なんですって。中秋の名月の後の月なので「後の月(のちのつき)」と呼ばれたり、「栗名月」「豆名月」と呼ばれたりします。
十三夜にもお月見をする習慣があって、十三夜にはお月見団子は13個供えるんだそうです。
十五夜、十三夜のどちらか一方しかお月見をしないと縁起が悪いと言われることもあるようです。美しい月は何度でも眺めて幻想的な美しさを堪能したいですよね。
ちなみに今年の十三夜は10月21日だそうです。
また、1年に現れる満月の回数で12個、閏月のある年は13個を飾るという供え方もあるそうです。
三方に白い紙を敷いてピラミッドのようにして乗せます。
並べ方は一番下に3個を3列、3×3で9個並べます。その上に中央に2×2で4個乗せます。これで13個になります。15個の時は更に上に2個、正面から見て1個に見えるように並べます。
お団子の形は、月の形に似せたまん丸のものや、収穫した里芋の形に似せたものがあります。まん丸のお団子は死者の枕元にお供えする「枕団子」に似ているので、少しつぶして平たくするという地方もあるみたいです。
丸は関東地方、芋型は関西の方が多いようですね。
いずれにしても、作物の収穫に対しての感謝と豊作を月に願ってお供えをすることから来ている形ですね。そして、人々の気持ちが月に届くように縁側などの月から見える所に飾るんです。月から見て上位の左側に自然界にあるそのままのススキを、右側に人の作った団子を置くのだそうです。
お月見団子を天に向かって高く積み上げることや、人が加工したものよりも自然界にある物を上座に置くのは、月や自然界に対する畏敬の念の表れなんでしょうね。昔の人は自然と共に生きていたのですね。
私のお月見の思い出は、大学生の頃です。
一人とっても優雅なお家の子がいて、葉山に別荘と言うより、セカンドハウスがあったんです。
その家はちょっと小高い所にあって、海を見下ろせるのです。二階建ての屋上が広くって、バーベキューをしたり日光浴が出来るようになっていました。
そこに仲良し5~6人が集まって、お月見をしたのです。
「私は晴れ女だから大丈夫。安心よ!」って豪語する3人もの自称“晴れ女”を尻目に、あいにくの曇り空。
それでも、大量に買い込んだ料理や飲物で盛り上っていたんです。
ところが、だんだん雲行きが怪しくなってきて、今にもパラパラと小雨が降りだ出しそうになってしまいました。諦めて屋内に移動しようと片付け始めた時、雲が動き出したのです。
そして、あっ!雲が切れて、その合間から神々しい満月が、私たちに微笑みかけたのです。
思わず皆「あーっ!きれい!」と声をあげました。その後、暗く大きな空に黄色みを帯びて輝く月にしばらく見入ったのです。
その満月は私達全員を平等に、静かに優しい光で照らしてくれました。何だかとっても満たされた気分になったのを今でも憶えています。
月には、不思議な力があるんです。
子供はお月見団子を自由に食べられるの?
お供えのお菓子や果物って、普通は子供が食べたがっても下げるまでは食べさせてもらえないですよね。
ところが、お月見団子だけは特別なんです。お月見団子だけは子供は盗んで食べてもいいんですって。
地方によっては、子供はよその家のお月見団子まで勝手に食べても良いんだそうです。ハロウィンのように子供達が各家を回ってお菓子をもらって歩く風習のあるところもあるんです。
子供は月からの使者だからなんですって!!
まとめ
■毎月15日は満月
太陽暦は、地球が太陽の周りを1週するのにかかる日数の365日を1年と決めていますが、太陰暦では月が地球の周りを1周するのにかかる日数を1ヶ月と決めています。太陰というのは月のことなんです。
太陰暦では月が最も欠けた新月が上弦の月となり、15日に満月になります。月は徐々に欠けて行き下弦の月になって、27日から29日にはまた新月になるというサイクルだから、毎月15日に満月が現れるんです。
■秋の真ん中の満月が中秋の名月
太陽暦では7月から9月が秋。8月15日は秋の真ん中の日なので「中秋」です。そして中秋の月なので「中秋の名月」と言って、1年で最も美しい満月とされているんです。
■美しさを愛でるお月見は宴会から信仰へ
お月見は美しい月を鑑賞する宴から、作物の収穫を月に願い、感謝するお供えになって行ったのです。
それは月の満ち欠けのサイクルが、農作業において植物の生長のリズムと非常に密接な関係にあることを、昔の人は知っていていたからです。月の満ち欠けのサイクルを農作業のより所として、月への畏敬の念と信仰心が芽生えて行ったのでしょう。
だから、今年収穫のあった作物を月に供えたのです。米は団子にして供えたんですね。
■お月見団子は十五夜には15個、十三夜には13個。または1年間に現れる満月の数の12個
十五夜の15個など意味のある数字の数のお月見団子を、天に向かってピラミッドのように積み上げてお供えします。そして、月からの使者である子供はお供え物であるお月見団子を好きなだけ盗んで食べての良いんですよ。
昔の人は、自然の摂理やリズムに抗う(あらがう)ことなく、しなやかに自然に合わせて寄り添って生きるすべを知っていたんですね。
今や人が考えたり判断するよりも、AIに合理的に判断してもらう時代です。でも、昔の人は自然の大きなうねりの中に身をおき、身を任せて、その中で様々な法則を見つけて逆らうことなく生きて来たんです。昔の人のたおやかさって凄いですね。
本当の強さを感じます。私も見習いたいと思います。